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兵庫医大の9階西病棟の男子トイレには落書きが書いてある。
鉛筆で書かれたとても小さな落書きだ、なにしろタイルの目地に書かれてるのだから。
いまにも力尽きそうなヨロヨロの字で「ガンバレ ガンバレ」と書いてある。
「おまえも頑張れよ」とジミー大西のように思わずツッコみたくなる程弱々しい字だ。
一体誰が書いたのだろうか。
見舞客が書き付けたのか、それとも患者が自分自身を励ますために書いたのか…。
日本の古い信仰には「言霊(コトダマ)」といって言葉には神秘的な力や魂が含まれているという考えがある、神主のノリトなんかがそうだ。
目地に書かれた「ガンバレ」という言葉にはたしかに言霊があった。
今にも消えてしまいそうなくらい小さくて心細いのに中心にはとても温かい光がある様だった。
あらゆる災厄が飛び出したパンドラの箱の、最後に出て来たっていう「希望」という名前の小さな光の事を思い出した。
兵庫医大に転院する前から、不安で夜眠れない時には自分で自分に「絶対頑張るんや!絶対頑張るんや!」と呪文の様に心の中でつぶやいてたので、思いがけず「ガンバレ」の落書きに出会ってしまった時は涙がとまらなかった。
トイレの落書きで泣くなんて今後の人生にはきっと無いだろうな。
それ以来、大切な人や本当に心配している人を、慰めたり励ましたりする時なんかにはやさしく「…ガンバレ」と言うことにしている。
そしていつもあの落書きを思い出す、「ガンバレ」という言葉が最後のせめてもの救いになってくれれば…、と切なく思う。
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