第32話「天孫降臨」

9階西病棟に変なおっちゃんがやって来た。
「ワシはなぁアマテラスオオミカミの生まれ替りなんや、そやからワシに祈ったら病気なんかすぐに治る!!」とのたまいながら重症患者のベットを布教して回ってるのだ。
しかも点滴棒をガラガラ引っぱって…「いや、アンタ、自分治せよっ!!」って感じだ。

なんでもUC患者で、長い間大量のステロイドの使いすぎでおかしくなったらしい。
たしかに目を見ると普通の人とは違った輝きをしている。
こーゆー人にはツッコミをいれてはイケナイ、相手をしない事にした。
向こうもそーゆーのは解るらしく僕にはかまって来なかった。
その後一度だけ風呂場で出会った事があったがその時はスイッチが入ってなかったらしく普通の会話を少しだけ交した。

しばらくしたある日、夜中の2時頃に廊下で大声出して暴れているヤツが…。
なんか騒々しいので目を覚まし「騒ぎの元はあのおっちゃん?」って感じだったが、わざわざヤジウマに行くのも「なんだかなぁ」と思いそのまま寝てしまった。
翌日他の患者に聞くと例のおっちゃんが大暴れして結局精神病棟送りになったらしい。
  
ステロイドの副作用で一番怖いのは精神異常だ。
確かに骨頭壊死や骨粗鬆症も怖いが「あっちの世界」に行ってしまうよりはマシだ。
「精神が不安定になる」とは聞いていたが気が狂ってしまうとは現実に目のあたりにするまで知らなかった。
まぁステロイドの副作用だけとは言えないんだろうけどね。
でも、もし医者の巡り会わせが悪ければ、自分もああなったかも知れないと思うと非常に怖く思った。
  
その後、某先生から聞いた話によれば、彼はしばらくして精神科で亡くなったそうだ。
点滴やチューブを引き千切ったり暴れて治療出来なかったりした為らしい。
「神さん違うて仏さんになりよったな」笑えない話だ。
ステロイドは潰瘍性大腸炎自体より何倍も恐ろしい。