第53話「笑える薬」

UC患者で心が病んでいる人は多い。
特に外科なんかはUCの最終処分場だけのことはあって、長い闘病生活に疲れたり、薬の副作用で精神不安になったりして、精神科に通う患者は結構多い。
元自衛隊のUC患者T君はステロイドの副作用で精神科や脳外科にまでも通っている。
1回目のオペなんか精神混濁でよく解らないうちにオペになってしまったらしい。
待合室で酔っ払ったみたいになって、大暴れした事も有るそうだから中々のツワモノだ。
  
彼は普通に「笑う」ことができない。
それは顔の神経がおかしくて笑えないのか、笑う感情が生れてこないのかは不明なのだが、とにかく笑えないのだ。
だから「笑える薬」を飲んでいる。
「俺な、笑えへんから笑える薬飲んでるんや、おかしいやろ」
・・・笑えない話だ。

鬱もそうだが精神病の多くは薬を飲めば治る。
「精神科に通っている」と聞けばイメージ的に普通の社会生活ができない再起不能な異常者といった感じがするが、ちゃんと治療すれば治る「体の病気」と変わらない。
「心がちょっと風邪をひいている」だけなのだ。

T君はよく、不眠症で夜眠れなくて深夜に関わらず喫煙場所のソファーに座ってぼーっとしていたりする。
眠剤も時々貰っているみたいだが、あまり使いすぎるとクセになるので毎日はくれない。
夜トイレに行った時とかソファーの前を通ってみるとT君がぼーっと座っている。
「よう、まだ寝えへんの?ジュース買いに行くけど行く?」
「うん」
夜中の病院をウロウロするのは意外と楽しい。
9西病棟には困った患者が多い。