第68話「甲子園」

兵庫医大のある阪神電鉄武庫川駅の二駅向こうには、あの阪神甲子園球場がある。
『阪神タイガース=大阪』のイメージが強いので甲子園は大阪にあると思っている人は多いが、実は兵庫県にあるのだ。
だから野球シーズンともなれば、普段阪神電車に乗り慣れていないシロウトの見舞い客や外来患者は面食らうこと間違い無し。

シーズンになると、まず、走っている車両が違う「トラ縞ペイント特別列車」が走るのだ。
当然車掌や運転手もトラ縞の制服で、驚く事に背中にはちゃんと背番号とネームが入っているから本格的だ。
駅のチャイムも六甲おろしバージョンが流れ、試合中などは車内でタイガース速報を車掌がアナウンスする。
阪神電車はタイガースの親会社なので野球を引退した選手なども働いている。
この間は尼崎駅で「車掌○△に変わりまして、背番号37和田豊-」和田が選手交代、車内では「男ーなら、いーのちかけてー、ボールに喰らい付けー♪」、和田の応援歌を乗客みんなで歌って盛り上がる場面に出くわしてしまった。
なるほど阪神電車沿線住民全てが阪神ファンにならないワケがない。

・・・・・・すいません、ホラ吹きました、全部うそです。和田が車掌してる話以外は。

とまぁ、そんなのは置いといて、春といえば選抜高校野球である。
この時期に手術なんかが重なるとちょっと困った事になったりするのだ。
というにも、近所の宿泊施設がみんな高校球児で埋まってて、付き添いの家族の宿が取れなかったりするからだ。
9西病棟の窓からも見える「水明荘」というネオンが侘びしいショボくれた宿ですら一杯だったりするからオドロキ。

しかし遠くから入院してくる野球好きには嬉しいらしく、隣のベットのSさん(岐阜)がいそいそと「ちょっと外出して甲子園みてくるわ」と遊びに行ってしまった。
「きっとビール飲んでヤキトリ食ってヤキソバ食ってカレー食ってチアガールのパンチラ見てくるんだぜ、いいなぁー」
居残りの外出できない食事も制限されてるモノドモで羨ましがってみた。
「・・・・でも食いすぎてイレウス起こしたりして」
「・・・・いや、意外に暑いから脱水起こすかも」
「・・・・それよりプレドニンが急に切れて動けなくなるとか」

UC患者はみんな性格が悪い素直なのだった。