第1話「発病」 体の調子がおかしくなってきたのは96年夏ごろからだった。 (それまでは橋本シンヤか渡部トオルくらい見た目も中身も健康だった) 大学を出て姫路市内の大手豆腐屋に就職して半年ぐらい経ってからだ。 夜勤中、気温の低くなる明け方になると時々お腹が痛くなる。 でも、トイレに行ってもなぜか便は出ない。 豆腐屋という職業がら水を使うのでビショビショに濡れる事が多く、「お腹、冷えたのかな?」ぐらいにしか考えていなかった。 「営業職」で入ったハズなのに、工場で夜勤中心(月16日!)のハードな製造をやらされてたもんだから精神的にも肉体的にもボロボロになっていたので、「体調を崩してもしょうがないか」とも思ったし、なにより病院に行く暇があるんだったら家で寝ていたかった。 秋ごろになると毎日の様に腹痛が襲うようになった。 そりゃもういきなり強烈な便意が襲ってくる、ノルマンディ作戦並みだ。 「うっっヤベ、出そうっ」「はうっ、でっでも、うごいたらもれそう」 とりあえず、お尻をギュッと締めて「波」が去るのを待つしかないのだ。 しかし、時としてイタズラな神様が試練をあたえる。 そーゆー時に限って豆腐の製造機がエラー起こしてサイレンを鳴らしまくるのだ。 泣きそうになりながら機械を調整してまわる。 大豆のタンクを切替え、蒸気バルブを調整して、消泡剤を増やし、凝固剤の数値を変える、そしてスキを見てトイレへ駆け込む。 それこそ「底抜け脱線ゲーム」って感じだ。 そしてついに便に血が混ざるようになった、いわゆる「粘血便」だ。 さすがに血を見ると「ちょっと医者いかなアカンなこれは…」と思う様になってくる。 それに実際、体がすごくダルくてフラフラになってたし。 まぁ、仕事自体をとにかく休みたかったので、「検査で入院とかになったらラッキーかも…。」っていうアホな考えもかなりあったのだが。   ------------------------------------------ 第2話「診察」 家の近所にはI田病院という、めっぽう年寄りに人気のある医者がいる。 非常に気さくな先生らしく年寄りの話を「うんうん」と良く聞いてくれるらしい。 一部では「神様のような先生や」と言われているらしいので、ちょっと見物がてら診てもらいに足を運んだ。 噂通り待合室は人でいっぱいだ、やはり年寄り連中が沢山いる。 老人A「吉田さん、最近見いひんなぁ」 老人B「なんか風邪ひいて調子悪いんだと」 などと「なんでやねーん!」とツッコミたくなる会話をしている。 患者が多く、診察終了時間をかなり回ってから、ようやく名前を呼ばれた。 診察室に入ると確かに優しくて物腰の柔らかそうな初老の先生が待っていた。 「あぁ早く帰って寝たいよ、今晩も夜勤なんだよなぁ」と思いつつ、とりあえず自分の症状を先生に説明する。 急に腹痛が起こること、血便が時々出ること、便が出そうで出ず透明の粘液が代りに少し出たりすること、体がだるいこと、などを話す。 その後、簡単に脈拍や体温を計ってから、以外と簡単に先生の口から病名が出てきた。 「多分、クローン氏病か潰瘍性大腸炎でしょう。詳しい検査をしないとハッキリしませんが…、ウィルス性の大腸炎の可能性もありますしね。」 結局、この病院では検査の設備が整っていないので、翌日、同じ系列のもっと大きい病院で大腸の検査してみる事を取り決めた。    とりあえず、そのあと処置室で点滴を1本打ってもらった。 点滴をベットで打たれながら「やった!これでしばらく会社休めそうやん!!」 「でもなんかクローン病ってヤツはなんか怖そうやな、潰瘍性大腸炎の方がマシか?」 「あと、癌とやったらドッチがええんやろ?癌は嫌やなぁ癌は。」 「それにしても大腸の検査ってどないするんやろ?なんか下剤飲むって言ってたな、やっぱファイバースコープをケツに突っ込まれるんかな?うーん最悪。」 などと何も知らない僕は、余裕ないくせに妙に余裕のある事を考えていた。 ------------------------------------------ 第3話「検査」 大腸を検査する場合「カメラ」と「造影(透視)」の2つのコースがある。 潰瘍性大腸炎患者にとっては、どちらも非常にツライ検査となる。 カメラはファイバースコープをお尻に突っ込まれるのだが、中で空気を送って広げて覗いたりするので、潰瘍だらけだったりするとメチャクチャ痛い。 しかしカメラは「痛そうか痛くなさそうか」が見たまんま解るので、まだマシだ。 造影はバリウムをお尻から注入して、その影を撮影するので、患部がどうなっているかが解りにくい。 そのため潰瘍があろうが出血してようが容赦なしでバリウムを入れられまくったりするので、ヘタな人にされると失神ものだ。(まぁ潰瘍性大腸炎と解っていたら症状を悪くするので、普通は「ここ一番」って時以外あまりやらないんだけどね。)    僕は、前日予約した市内のE病院へ夜勤明けと絶食でヘロヘロになりながら大腸の透視検査を受けに行った。 服を検査服に着替える、長い浴衣っぽい服とコレ見よがしにお尻に穴の開いた使い捨ての紙パンツだ、「ううぅヤだなぁ」と思うが仕方ない。 冷たい検査台に上がって横向きに寝るとワセリンをお尻に塗られる。 「はい力抜いてねー」「はっはうぅっ!!」お尻にバリウムを注入するチューブを突っ込まれる、恥ずかしいという感情よりも痛さの方が勝っている「イテテテ」。 かなり痛かったが本当にツライのはこれからだった。 バリウムを容赦なくドンドン入れられるのだ、なんだかディグダグのプーカの気分がちょっと解ってしまう(*ナムコの古いゲーム。穴を堀進み怪物をポンプで膨らます) そしてまんべんなくバリウムが行き渡るように、痛いのをガマンして指示通りに体の向きを変えさせられ、さらに検査台自体をぐるぐる回される。 眉間にシワを寄せ歯を食いしばって、ひたすらお腹が痛いのを堪える、今までにない苦痛だった。 「ぐぉっ、やめろーショッカー」 こんな時にすらくだらんコトを考えてしまう自分のいまいましい芸人根性にツッコミをいれながらとにかく堪えた。   拷問の様な検査が終わると一人で立って居られない程フラフラになってしまった。 挙句、検査技師(先生?)に片腕を支えられながら油汗びっしょりで検査室を出る事に。 「キミ大丈夫か?」という問に内心「いや、アンタのせいやんけっ!!」と思いつつも 「あはあは、だいじょおぶですよ、えへへ」と引吊った笑顔なんかふりまきながら…。 ------------------------------------------ 第4話「入院」 造影検査をしてみると直腸部分に沢山の潰瘍と横行結腸にポリープらしき物が有ることが判明、さらにウィルス性の大腸炎の薬も効果が無いので、しばらく入院して一通り検査を受ける事になった。 普通「入院」となると色々焦って深刻になるものだが、僕の場合は「合法的に会社が休める」というので、ほとんどレジャー気分で入院準備を整えた。 「ゲームボーイ」と「ポケモン」を買いに行き、本屋で面白そうな本を買い込む、前から読みたかった「グラハム・ハンコック」と「笹本祐一」「中島らも」等数冊だ。 「1カ月やそこいらはヒマをつぶす準備をしないとな」 なんてお気楽なコトでしょう。    しかし、実際「ゲームボーイ」は入院必すうアイテムだ。 「6人部屋全員ゲームボーイ状態」なんて事になってしまうくらい入院患者内での普及率は高いのだ。(ちなみに人気ゲームは将棋・麻雀・ピクロス・ポケモン等、延々とヒマ潰し可能なゲームが多い) 「お見舞ナニがイイ?」「うーん、中古のゲームボーイソフト」っていう状況も…。 不良患者の僕は病院から抜け出して(しかも病衣で)ゲームソフト買いに行ってた程だ。 夜勤明けのまま一睡もせず、眠い目を擦りながら姫路市内のE病院へ向かう。 それにしても入院日だというのに人使いの荒い会社だ、コレだから田舎の中小はヤだ。 「まぁ病院ではイヤっていう程眠れるか…」 とにかく休息できることが嬉しい。 手続きを済ませ看護婦さんにベットへと案内される、2階の一番端っこで北向きの非常に寒そうな6人部屋だった。 糖尿のオッチャンが2人とおじいちゃん1人、盲腸の30才位の人が1人の合い部屋だ。 看護婦さんに病院内の決まり事や一日の検査時間や食事時間などスケジュールを説明してもらい、問診票を書く、ちょっと面倒くさい。 問診票をナースステーションに出して、その後病院内を探検する。 TVのある談話室、自動販売機コーナー、屋上、ランドリーなどウロウロしてみる。 特に屋上が気に入った、4階建ての屋上なので見晴らしは結構イイ。 10月末の秋風は少し寒かったが…。 ------------------------------------------ 第5話「内科治療LV1」 E病院での主治医M先生が言うには 「潰瘍性大腸炎には良く効く薬があるから薬が効けば一週間で血便が止まる。たとえ効かなくても、その次に使う薬も決まっているから大丈夫。」 という事であった。 なんでも厚生省による指針らしきものが決まっているらしい。 この時点での体調は、しぶり腹をともなう1日4-5回の粘血便・微熱(7度くらい)・ほんの少し貧血度があるといった軽症だったので、とりあえず低残さ食+サラゾピリンで治療をする事になった。    低残さ食というのはいわゆる「消化の良い食べ物」である。 消化の悪い(繊維質の多い)食物は大腸粘膜を刺激するので良くないのだ、もちろん油っこいモノや超辛い刺激物も良くない。 よって食事は「おかゆ+さかな」など、お年寄りが好きそうなメニューとなる。 肉なんて全然出ないぞ、毎日「なんの魚か判らないカスカスの魚」が出てくるんだ。 どこから見ても渡部トオル似の僕にとってはコレは非常にツライ。 あと、なにがツライって朝ご飯が「おかゆ+味噌汁+牛乳」な状況がツライ。 (後になって乳製品も良くないらしいと知ったがE病院ではナゼか牛乳が出ていた)なんちゅうメニューだ、オカズはどーしたオカズは。 せめて「ゴハン+味噌汁」ならネコマンマにでもするのだが、おかゆではジャブジャブになっちゃうのでそうも行かない。 とりあえず小学校で習った「主食・おかず・口直しの三角たべコンビネーション」は無かったものとして一品づつやっつけて行くしかない、学校で学んだ事が全てじゃないというアリガタイ見本だ。    サラゾピリンの副作用 血小板減少症:止血成分が減少したため少しの出血でも止まりにくくなる。 無顆粒球症:細菌感染を防ぐ白血球内の顆粒球が減少し肺炎を起こし死に至る事も 膵炎:急性膵臓炎を起こす事がある。 その他:皮膚<斑点状丘疹・水疱、眼<結膜炎・角膜炎・虹彩毛様体炎、口<口内炎、頭痛、男性不妊症など。 ------------------------------------------ 第6話「病室」 僕の入院していた病室はなかなかの環境であった。 まず、病棟で一番はしっこの部屋だったので、とにかくトイレが遠かった。 UC患者は急激にトイレに行きたくなる。 トイレまでの距離が長いと、その道のりは決死行となるのだ。 トイレにたどり着くまでに2回は強烈な「波」が襲ってくる。 「はうううっ」直立状態でおケツを締め、波が去るのをガマンする、かなり情けない。 また、そーゆー時に限ってタイミング悪く看護婦さんとかが通りかかったりして「大丈夫?なんかツラそうやで?」など優しい声をかけてくれるのだが、まさか「ンコもれそ」などとは恥ずかしくて言えない。 ついつい「あ゛、う゛ん゛、元気゜元気゜」なんて脂汗を垂らしながら答えてしまったりする、あい変わらず損な性格だよ。    あと何がツライかって「一番はしっこ」の部屋は強烈に寒いのだ。 三方何も無い上に、よりによって北向きの病室なので昼間でもなんだか寒い。 結構オンボロの病棟だったのでスキマ風入ってくるは、暖房は効かないは、最悪だ。    そして何より過酷だったのは「同室のSさんのイビキ」であった。 「隣の部屋でもうるさい」「トイレまで聞こえた」など、それはそれは凄まじい破壊力で、阪神高速43号線の騒音訴訟もマッ青だ。 しかも、また、Sさんは良く寝るんだコレが。 消灯前から朝ご飯までキッチリ寝たうえに、昼も2-3時間はお昼寝している。 もちろんイビキ付きで・・・。 まぁ別にワザとやってるイヤガラセのわけでも無いし、Sさん自体もイイ人なので仕方ないんだけどね、はぁ。 とりあえずイヤウィスパー(耳栓)を買って来て耐え忍ぶことにした。 耳栓は入院必需品だ。 ------------------------------------------ 第7話「内科治療LV2」 治療を始めて一週間以上過ぎたが症状は全く改善されなかった。 そこで、サラゾピリンからペンタサへ変え、同時にステロイド溶液で注腸することになった。 ペンタサは新薬でサラゾピリンより副作用が少なく使用量も少なくてすむらしい。 薬が変わるのはいいんだけど、注腸には参った。 注腸ってのは、まぁようするに「カンチョー」みたいなもんだ。 看護婦さんにステロイドの液をおしりに注入されるんだから、そりゃあハズかしい。 「はい、横になってオシリ出して」オシリにワセリンを塗りチューブをツッ込まれる。 「初めてなの優しくしてね♪って言ったら怒られるかな?」とか「看護婦さんとカンチョープレイつったらマニアにはたまらんだろな」と一瞬思ったりするが、痛さと恥ずかしさで喜んでる余裕は無かった。 大体、僕は看護婦マニアちゃうし・・・余談だが男の人に「看護婦とセーラー服どっちが好き?」と聞いて見よう!「うーんとなー・・・」実に真剣な顔でくだらんコトを考え込むので面白いぞ。 注腸はステロイドを入れた後10分位はそのままトイレを我慢しなければならない。 これがなかなか我慢できない、すぐにトイレへ駆け込んでしまう。 僕の場合はステロイドを溶かした液を注入していたが「ステロネマ」という注腸用のものもある。 コレは駄菓子屋で売っている様なビニール容器のジュースに細長いチューブが付いた様な形をしている。 使用時のコツとしては「人肌」に温めるとイイ感じだ。 ------------------------------------------ 第8話「入院患者」 どこの病院もそうなのだが、E病院もまた入院患者のほとんどは年配の人ばかりだ。 若い患者はいない、オッサン・オバハン・ジジ・ババがスターティングメンバー。 しかもツワモノぞろいだ。 パジャマで外出する人なんか普通な方だ、「点滴台(キャスター付き)」をゴロゴロ転がして向かいのローソンへ毎朝新聞を買いに行くオジイちゃんがいる。 近所の喫茶店ではパジャマでメシ食ってるのを目撃しちゃったりもする。 アル中のオッサンなんか外出して内緒で酒を飲んでくる、ニオイでバレバレだ。 看護婦さんも大変だ。    しかし夜になると病院内にはもっとすごい人があらわれる。 深夜に廊下を徘徊するヤツラがいっぱいいて非常に怖いのだ。 カラカラ点滴台を引きずる音、「ズル・・・・ぺた、ズル・・・ぺた」足を引きずるような音、またそーゆう音に限って病室の前で止まったりする。 夜中トイレに行く時はかなりヤだ。 一度、廊下の角からイキナリ「首を固定するために頭にワイヤーとボルトを刺して大きな金具を付けているオジイちゃん」が出てきた時は泣きそうになった。 ほとんどヘル・レイザースかハウス・オブ・リビングデッドの世界だ。 あと別の意味でコワイ「オムツを持ってウロウロするオバアちゃん」とかもいる、オバケや幽霊より、よっぽど生きている人の方が怖い。 ------------------------------------------ 第9話「悪化」 入院2週目の週末、金曜外出、土日外泊、というスケジュールでハメを外す。 罰が当たったのか、病院に戻ってくる頃にはしっかり風邪ひきになっていた。 もともと病院内でも風邪がはやっていて「ちょっと風邪ぎみカナ?」と思っていたんだけど、家に帰りたかったので無理したのがいけなかった。    その週の始めは「咳・微熱・倦怠感」ぐらいだったのだが週末にはIVH(あいぶいえいち、高カロリー点滴、絶食を意味する)をつけるような状況になっていた。 風邪の悪化に伴い潰瘍性大腸炎の方も悪化し血便は完全な血になった。 自分でもわけのわからないまま、坂道を転がるように悪くなって行く。 それはそれは、いろんな意味でド迫力の転がりようであったと言えよう。    ベットで苦悶の表情で(イビキ用耳栓装着)寝ていると、看護婦さんが「隣の病室への移動」をすすめてくれた。 「トイレが少しでも近くなる、Sさんのイビキが聞こえない、隣の方がまだ寒くない、ベットが丁度空いている」などの理由で移動することになった。 本当は個室に移したいところなのだが、空いている個室が無いという事だった。   しかし隣の部屋に移ったのはいいが、そこもまた、ややこしい部屋だった。 かなわんオッサンが1人いるのだ。 なんでも「ワシは今風邪ひいたら命にかかわるんや、前に風邪ひいてエライ目におうたんや」らしい、とても命にかかわりそうには見えなかったが。 そして、ウンウン寝込んでいる僕に「ほやから風邪ひきの誰かさんは、ええメイワクなんや」など心優しいオコトバを聞こえよがしにおっしゃっりやがるのだ。 更にたちの悪い事に「オッサンの孫(幼稚園児X3匹)御一行」がコリャまたうるさい。 頼んでもないのに「キーキー」頭に響く声で御菓子の取り合いをしてくれるのだ。 しかも親は全く注意しない、それどころか「昨日スマスマで慎吾ちゃんがなぁ…」「見た見た!私も慎吾ちゃん好きやわぁギャハハ!」等と大きな声でしゃべっている。 はぁはぁ、なんか今さら腹たってきたぞコンチクショウ。 しかし、その時は熱と腹痛でモウロウとしてたので文句を言う余裕すら無く、ただ目を閉じて眉間にシワを寄せながら、じっと寝ているしかなかった。 ------------------------------------------ 第10話「内科治療LV3」 結局、新しい部屋には3・4日しかいなかった、個室が空いたのだ。 症状の軽くなった人に大部屋に移ってもらった、とか何とか聞いたような気がするが熱で頭が回っていなかったので良くわかんない。   状況としては、熱+咳の風邪ひき・ご飯が食べられず点滴(絶食)・下血(完全に血)トイレまで行く元気がなく、行っても間に合わないのでポータブルトイレ・口の中は口内炎だらけ、といったトコロだ。 なかでも口内炎はスゴかった。 本当に口中口内炎で、一番大きいのは500円玉大なんだから、たまらない。 ノドにもできていて水を飲むのもツライ、声も全然変わってしまった。    良くなるどころか電撃作戦のように悪化していくのでステロイドを使う事になった。 注腸も患部を刺激するのでやめることにした。 「プレドニン(ステロイド)は潰瘍性大腸炎にはすごく効く薬だから下血もすぐに止まるよ」という先生の話だった。 そして、副作用の強い薬なので長い期間使うと危険だということも聞いた。 「この薬が効かなかったら手術になるんですか?」オペの話は以前に聞いていたので先生にたずねると、「いや、ほかにも治療法もあるから心配しなくても大丈夫」M先生は笑顔で答えた。 ステロイド(プレドニン、ステロネマなど)の副作用 1.社会生活にかかわるもの。 骨粗鬆症(骨が脆くなり骨折しやすい)・骨頭壊死(股間接の大腿骨の頭部分が腐る)・白内症・緑内症・難聴・高血圧症・糖尿病・ステロイド筋症(筋肉が細くなり立てなくなる)・ステロイド神経症(腱反射<かっけ検査の膝を叩くヤツ>が無くなる)・血液凝固異常(血栓症)・発育障害・精神障害(うつ病・不眠症)    2.社会生活に支障は出ないが心理的に影響するもの 満月様顔貌(ムーンフェイス、顔が満月のように丸くなる)・中心性肥満・皮膚線条・多毛・脱毛・にきび    骨頭壊死と難聴以外はステロイドの服用をやめれば治っていく(状態により個人差あり) ------------------------------------------ 第11話「内科治療LV4」 プレドニンを使い始めて一週間ほど過ぎた。 風邪の方は治ったもののUCの症状は全く回復する兆しがなかった。 そこで「動脈注射」とかゆーのをやってみる事になった。 主治医の先生がどこぞで調べてきた治療法で、足の付け根の動脈からカテーテルを入れ、大腸の動脈まで直接カテーテルをのばしてステロイドを注入する方法だ。 主治医のM先生は今までUC患者を1人しか診た事がなかったので(しかも軽症の患者)ほうぼう手をつくして治療法なんかを調べてくれたらしい、いいヒトだホントに。 カテーテルの影を造影で見ながら血管を通していくので熟練した技術がいるらしく、よその国立病院の先生に来てもらってM先生と2人がかりで治療する事になった。    治療自体は最初ふとももにブッ刺す時が痛いくらいで、さほど苦痛等は無かった。 ステロイドを動脈に注入する時なんかステロイドが温かくて気持ちいいくらいだった。 (部屋が寒い上に検査着1枚でちょっと寒かったのだ) むしろ、治療よりもその後の動脈の止血の方がヤッカイだった。 動脈の止血には時間がかかり、絶対安静12時間、安静12時間ぐらいが目安らしい。 圧迫するために当て物を足の付け根に当て、テープでグルグル巻にされる。 寝返りすらダメなので、当然トイレになど行くことはできない。 よって「オムツ」をしなくてはイケナイのだ、・・・・とほほ。    浣腸プレイも恥ずかしいがオムツプレイの比ではない。(プレイっていうなプレイって) 看護婦さんとはいえ、女の人にシモの世話をしてもらうなんて最悪の事態だ。 交換してもらっている時、恥ずかしいもんだから「あっいや、いつもはもっと大きいんやけど、ほら今血が足らへんから・・」などとワケわからん言い訳しちゃうし・・。 あげくに「タマの裏」までキレイに拭かれちゃったりもした・・・。 そこまで行っちゃうと「着物を着崩して涙を浮かべながら横座りで「もう・・・好きにして・・」って言う未亡人」ぐらいナスガママな感じだ。 この一件以来、僕は「看護婦さん」という種族には頭があがらない、はぁ(溜め息) ------------------------------------------ 第12話「見舞客」 僕の友達は演劇とかをやっているせいで変な人が多い、まぁ見舞に来てくれるんだ からそーゆーコト言っちゃ悪いんだが。 だからヤツラは「お見舞の品」もウケを狙ってくる。    ウチダは毎回「暇やろうから本買ってきたぞ、読め」といっては「あかいくつ」「 にんぎょひめ」とか絵本を持ってくる・・・。 ヤマモトさんはなぜか「仲良き事は美しき事かな」という文字とナスビの絵を書いた お手製の色紙を持ってきてくれた・・・。 タケッピはウケ狙いというより個人の趣味で「エヴァンゲリオン特大カレンダー」を 持ってくるし、後輩のタカイなどは「看護婦さんに改造した女の子のプラモデル」を くれた・・・飾れるかっ!んなもん!!看護婦さんに誤解されるわっ!まったく・・・ ま、くれるってゆーモンはしょうが無いから貰ってやるかな。(イヤ結局貰うんかい!) あと、ウケ狙いではなく単にナニも考えて無いサチ(後輩)なんかは「ベットででも遊 べると思って」って「スライム(緑色のドロドロしたやつ)」をくれた・・・遊ぶかー!! もっと女の子らしく「花」「手作りケーキ」とか普通のヤツをくれ、普通のヤツを。 チクショウお前ら覚えてろよ!今度入院するヤツがいたら、白衣を着てニセ医者に化け ドリルと金槌もってカーテン閉めながら「はい、お腹出して〜♪」って笑顔でニジリ 寄ってやるからなっ!!    p.s その他「普通」のお見舞くれた皆様ありがとうございます。 ------------------------------------------ 第13話「内科治療LV5」 動脈注射を行ってから一週間、一時下血がマシになったので(真っ赤な便→茶色)患部がどうなっているかファイバースコープで覗いてみることになった。 入院直後に1回検査しているので、その時のと比較する。 結果はというと「直腸は治っている所もあるが、ひどくなっている所もある、あまり奥まで行かなかったが横行結腸・上行結腸にも炎症が出ているかも知れない。」という事だった。    この頃、先生もかなり悩んでいたようである。 「内科治療を続けるか、外科手術に切り替えるか」一人の人間の人生を左右する選択だ。 しかも<プレドニン><患者状態><大学病院のベットの空き>などの時間制限付きだ。 それによって、「薬で治った」から、最悪の場合「腸が破れた最悪の状態で設備の整わないこの病院でのオペ」まで、の結果になるんだもんな。   結局「もうしばらく内科治療を行い<免疫抑制剤>を試しに使ってみる」ことになった。 しかし、この<免疫抑制剤>という選択も結構ツライ選択支だった。 「プレドニンの副作用より強い副作用があり、最悪腎不全等で死亡する事もある。」 などと脅かされてしまった。(実際にはそんな話はほとんど聞かない) ただただ「大腸を取らずに済むのなら・・・」という選択だった。    僕の飲んでた免疫抑制剤は保険が効かない薬だったので1粒2000円程、しかも1回12粒を朝晩2回、非常に高く付く。 それにこの薬カプセルなんだけど、デカイうえにクサイ、それを12個も飲むんだから大変だ、うえ。 まぁあえて例えるなら「アーモンド大のカメムシを12匹飲み込む」感じ、うえ。    免疫抑制剤(ロイケリンとか色々) 潰瘍性大腸炎は「自分の免疫が自分の大腸粘膜を攻撃する」ので、その免疫力を下げることで出血を抑えようとする治療法だ。 免疫を下げるんだから、当然感染症なんかの危険が伴うし色んな副作用の危険性もある。 また、女性の場合は妊娠時に奇形が起こる可能性が有るので免疫抑制剤を使う場合妊娠できない。 オペ前の使用はオペ時の感染症を招く可能性が高くなるので一期手術が受けられなかったりする事もある。(二期になったり、簡単な手術になったり) ------------------------------------------ 第14話「スカラベ」 あれからもう1回動脈注射をやったが症状は一進一退、転げ落ちるのを大量のプレドニン(1日120ミリ!)でかろうじて抑え込んでいるといった様相だ。 症状は1日7-8回の血便・微熱・不正脈(モニターを付けていた)・貧血(検査にも車椅子でないと行けない)・中毒性巨大結腸症(合併症:腸がぱんぱんになる)・といった状態で、治療はプレドニン・ペンタサ・造血剤・整腸剤・絶食で高カロリー点滴・脂肪分の点滴・免疫抑制剤を使っていた。    病棟内でも1・2を争うほど目を離せない患者になっていたので看護婦さんには結構優しくしてもらった。 もともと「若い男の患者」は、ほとんどいなかったので余計可愛がってもらえたのかもしれない。    僕はK田さんという看護婦さんが好きだった、例の「オムツ事件」の看護婦さんだ。(言っておくが恋愛感情とかじゃないぞ) 30ウン才独身、アネゴ肌の看護婦さんでエジプトとかが好きらしく「グラハム=ハンコックの神々の指紋」とかの話題で盛り上がった。 彼女は脈拍を取る時や注射をする時は、イスを持ってきて横に座ってゆっくりする。 注射は点滴のチューブのターミナルに注入するのだが、「早いスピードで入れられると冷たいでしょ」と気を使ってくれるのだ。 脈を取る時も、手(といっても手首だが)を長く握ってもらうととても嬉しい。 スケベおやじ的に嬉しいんじゃなくて、優しさで不安が癒されるようで嬉しいのだ。    ある日、「エジプトに行った時の安物のオミヤゲなんやけどあげるわ」とK田さんに<スカラベ>をもらった。  「たしか再生とか復活とかの意味があったと思うから病気治ったらええのにね」って。  「ありがとう。俺、絶対治るから」本当に嬉しかった・・・。 スカラベは紐を通してお守りにして大事にすることにした。 <スカラベ> いわゆる<フンコロガシ>だ。 エジプトでは「太陽はフンコロガシが動かしている」と考えられているのだが、太陽は夜になると死に翌朝には再び生き返ると考えられているので「再生」や「復活」という意味を持っているんだそうな・・・なんかスゴイよなエジプトって。 ------------------------------------------ 第15話「大出血」 その日、朝までは体調が良かった。 ここ2-3日は便の色も茶色から黄色にまでなっていたので「このまま治るかも?」 という淡い期待感を持ち始めていた。 しかし10時頃になり急に体調が悪くなり始めた。 お腹が痛くなりトイレに行くと便ではなく完全な血が出る。 しかも、出しても出してもドンドン出てくる、全然止まる気配が無い。 血には赤黒いゼリー状の塊がたくさん混ざっていた(血ペイという血が固まったモノ) いつもの下血とは明らかに違う。 そのうち目の前がなんだか白くチカチカし始めた、「あかん、こりゃヤバイ!なんとか ナースコールを押さな」と直感で思うが、頭と体はそれ以上動かなかった。 「ヤナイくん!ヤナイくん!」誰かの呼ぶ声が聞こえる。 ふと気が付くと目の前に斜めに床面が見える、どうやら倒れているらしい。 僕はケツ丸出しのハズかしい姿で床に顔面から倒れてる所を看護婦さんに発見された。 貧血が進んでいる所へ大出血したもんだから、そりゃ気も失うわな。 取り合えず助け起してもらいベットへと這い上がる、心臓は音が聞こえて来そうな程 バクンバクン鳴っている。 「待ってて先生呼んでくるから」看護婦のN村さんは慌ただしく走って行った。 しかしその日は運の悪い事に土曜日で主治医のM先生は休みだった。 M先生の電話の指示で、応急で輸血をする事になった。 その間も下血は続いていた、ドンドン血が溜まってくるのが解る。 しかし、一度出してしまうとさらに出て来そうな気がしたのでジっとガマンした。 トイレの血を片付ける看護婦さんに「今でどれくらい出血してるんやろ?」と聞く。 「えーと・・・・1700cc」・・・・やっぱ聞くんじゃなかった。 「はは・・出血大サービスやな」青い顔がさらに青くなった。 ------------------------------------------ 第16話「特効薬」 「・・・死ぬかな?」もの凄い恐怖が心の底から吹き上げてくる。 もし、死を覚悟した時あなたは何をしますか? 1.辞世の句をしたためる 2.冷蔵庫にとっておいたプリンを食べる 3.大切な人に逢う僕の場合は当然2番である、とりあえず冷蔵庫の「ビックぷっちんプリン」を食べた。 ・・・・ウソです、いくら僕でもンなコトはしません、本当は3番です。 実は僕には5年くらい片思いだった人がいたのです、もっとも半年程前に一度あきらめて違う娘と付き合ったんだけどね。(でも結局その娘とは半年もたなかった)彼女とは入院するちょっと前から再び連絡を取るようになっていた。 病室から彼女の家に電話をかける、ノドの口内炎と息があがっている為にうまく話せない、座っているだけでも貧血でクラクラしてくる。 「俺・・もうアカンかもしれへん・・・そやからどうしても逢いたいねん・・」 「・・・じゃあ、とりあえず今から行くから」 彼女は来てくれる事になった。    1時間程して彼女は来てくれた。 「・・ごめんな無理な事ゆうて。」「ううん、ちょうど姫路に出てくる用事あったし、・・あんまりしゃべらんとき、しんどそうやで。」 真っ青な顔でハァハァ言いながら輸血や点滴で管だらけになってるもんだから、彼女もかなり驚いているようだった。 大出血した事・緊急手術かもしれない事など不安に思っている事を彼女に聞いて貰う。 「お願いが1コだけあるんや・・・手握ってて欲しいねん。」 彼女は「もう!なに弱気になってんのよ。」そう言って僕の手を掴んで二三度叩いた。 2つ3つ冷たいものが真っ白な僕の手を濡らした。 「このまま死んでもいいな・・・」真剣にそう思った。    が、しかしスグに「いや、死んだらアカン!なんとしても病気を治すんや、そして彼女に告白するんやっ!!」などという思いが湧き出してくる。 真っ暗な目の前に一条のか細い光が見えたような気がした。 「オレ・・・頑張るわ。ありがとうな、ちょっと元気出てきたわ。」 単純な僕にとってはどんな薬よりも、たった1滴の涙の方が効果があった。 <裏話の裏話> 実はこの日、彼女以外にもウチダという芝居関係のツレも来ていた。 ハッキリ言って邪魔者であった。 <天使は瞳を閉じて>という芝居があるのだが、その話の中でスナック("おいでませ"という)のマスターが、人払いする為に「アキラ、頼みがある。モモが食べたい」といってバイト(アキラ)にモモを買いに行かせるシーンがある。 ウチダもよく知っている芝居なので「ウチダ、頼みがある。"きりり"が飲みたい」とワザワザ芝居口調で言って人払いしたのだ。 そして、その後で彼女と上のやりとりをしていたのだ。 しかし、やっぱりウチダは解って無かった!!ソッコーで「買ってきたぞ!」戻ってきた。 しかも嬉しそうに・・・、ぬぁぁアンタめっちゃ邪魔やっちゅうねん!! だから二人っきりだったのは十分ほどなのよね、内容が濃かったからいいんだけどね。 にしてもウチダ邪魔! ------------------------------------------ 第17話「審判」 看護婦さんが先生に連絡を入れてから2時間程してM先生が現われた。 下血はすこし落ち着いてきていたので先生も一安心したようだった。 「先生、やっぱり緊急でオペになるんですか?」 「うーん、そうやな…もしも腸が破れたりしたら大変な事になるからなぁ…」 「じゃあ、ここの病院でオペになるんですか?」 「いや、それは無い。兵庫医大の方に問い合わせてみたらベッドの空きがあるそうだから、そちらの方で手術をする方が間違いない。」 「全国で一番手術例の多い病院だから技術やノウハウはしっかりしているだろうから心配しなくても大丈夫だよ。」 「・・・やっぱりオペしないとダメですか?」 「そうやなぁ・・・」 病院の事務が動いていないので、休み明けの月曜日に兵庫医大の方へ正式に転院の要請を出してもらった。 そしてM先生が兵庫医大のS先生に患者状態を話したところ、免疫抑制剤の即時中止とプレドニン(120ミリ/1日)を減量するように言われたらしい。 その日の内に飲み薬は全部なくなってしまった、なんだか急にさびしくなる。 「管だらけの末期患者が死んだ後に次々機械や管を外されていく時ってこんな感じなのかな?」と少し思う。 まぁ治療をあきらめられたっていう点では同じか。 潰瘍性大腸炎の内科治療の限界をマジマジと実感する、結局内科ではどーにもならないのだ悲しい事だが。 M先生も非常に辛そうだった、患者に暗い顔を見せまいとしてたようだけど。    兵庫医大には土曜日に転院する事に決まった。 ちなみに丁度その日は僕が参加してた劇団の公演日であった。 入院前の予定では音響スタッフで当日のミキサー(音響制御卓、音楽のレコーディングの時に出てくるヤツ)を仕切るハズだったのだ。 入院してからは「ミキサーはでけへんけど点滴と車椅子で見にいくで。」などと言っていたのだがそれもダメになってしまった。 病院からホールまで10分くらいしか離れていないのに非常に悲しい。 ------------------------------------------ 第18話「転院前夜」 転院前夜、手紙を2通書いた。 1通は劇団のやつらに、もう1通は例の彼女宛だ。 ここ一週間ほど夜はあまり眠れなくなっていたので2時くらいまで手紙を書いていた。 ステロイドの副作用もあるのだろうが不安で眠れない、心臓の鼓動がうるさいくらい聞こえたり、「不安」がまるで物質のようになんとも言えない感触や重さで感じられる、嫌な味までするんだから不思議だ。    2時になるとプレドニンの注射をするために看護婦のKさんがやってきた。 Kさんはおっとりした感じの優しいお姉さんで、結構かまってもらっていた。 「まだ起きてたんや、・・手紙書いてたの?」 「あぁ、うん、明日劇団の公演なんや。ほんまやったら見に行く予定やったんやけど明日転院やから手紙だけでも書いとこ思て。それになんか寝れへんしな…」 「少しでも寝とかなあかんよ・・・やっぱり不安?」 「・・・うーん、そうやなぁ不安かなぁやっぱり。なぁKさん、オペした後って体はどないなるんやろ?大腸無くなっても、なんともないんやろか?」 「・・・私も良く知らないのよ、・・・ゴメン。」 「そやなぁ大腸全部取るヤツなんか滅多におらへんから解らんよな・・・」 「・・・・・・・」 「まぁ治らんもんはしょうが無い、ちょっと切ってくるわ。ま、盲腸多めに切った思 たらエエねん。」 「・・・ごめんな・・・ほんまやったら元気づけたらなあかんのに。」 Kさんは泣いていた。 「もう、なんでKさんが泣くねん、こういう時普通は患者の方が泣くんちゃうんか?」 そういう僕も泣いていたのだが。